IFRSで認められている「減損の戻入れ」について、三菱商事の事例を用いながら解説する。

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はじめに
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こんにちは、勝木です。



 

ある朝の出来事

普段から仲良くしてる4人で構成されているLINEグループがあるのだが、本日の朝、構成員のうちのひとりから、以下の記事のURLが送られてきました。 

三菱商事 初の連結赤字転落へ

news.yahoo.co.jp

資源価格の下落に伴い、計4,000億円規模の減損損失を計上するとのこと。

このニュースに対し、メンバーのひとりは以下のように返答していました。

IFRSなら資源価格が上昇した場合、「戻し益」が発生するから、意外と来年は「特別利益」がくっそ上がってる可能性もあるな

ふむ。興味深い。というわけで、今回は、IFRSでの「減損の戻入れ」ってテーマで色々と入念に述べてみようと思います。(※減損についての説明は、メンドクサイんで、入念に割愛します)

日本基準では「減損の戻入れ」は認められていない

日本基準では、「減損の戻入れ」は認められていません。固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書には、以下のような記述があり、わりと参考になります(※会計基準にはさらっとしか記述されていない)

減損処理は回収可能額の見積りに基づいて行われるため、その見積りに変更があり、変更された見積りによれば、減損損失が減額される場合には、減損損失の戻入れを行う必要があるという考え方がある。しかし、本基準においては、減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識および測定することとしていること、また、戻入れは事務的負担を増大させるおそれがあることなどから、減損損失も戻入れは行わないこととした

IFRSでは「減損の戻入れ」は可能

一方で、IFRSの場合は、「減損の戻入れ」が認められています。(※ただし、「のれん」の減損の場合はダメ)

「IAS36 Impairment of Assets」では、以下のような記述があります。

Reversing an impairment loss(減損の戻入れ)

①An entity shall assess at the end of each reporting period whether there is any indication that an impairment loss recognised in prior periods for an asset other than goodwill may no longer exist or may have decreased.

訳:企業は、各報告期間の末日において、過年度中にのれん以外の資産について認識した減損損失がもはや存在しないか、又は減少している可能性を示す兆候があるか否かを評価しなければならない

②If any such indication exists, the entity shall estimate the recoverable amount of that asset.

訳:そのような兆候が存在す る場合には、企業は当該資産の回収可能価額の見積りをしなければならない

③An impairment loss recognised in prior periods for an asset other than goodwill shall be reversed if, and only if, there has been a change in the estimates used to determine the asset’s recoverable amount since the last impairment loss was recognised.

訳:過年度において、のれん以外の資産について認識された減損損失は、減損損失が最後に認識されてから、当該 資産の回収可能価額の算定に用いられた見積りに変更があった場合にのみ、「戻入れ」しなければならない

④A reversal of an impairment loss for a cash-generating unit shall be allocated to the assets of the unit, except for goodwill, pro rata with the carrying amounts of those assets.

訳:資金生成単位についての「減損損失の戻入れ」は、当該単位中ののれん以外の資産の帳簿価額に比例的に配分しなければならない

⑤The increased carrying amount of an asset other than goodwill attributable to a reversal of an impairment loss shall not exceed the carrying amount that would have been determined (net of amortisation or depreciation) had no impairment loss been recognised for the asset in prior years.

訳:「減損損失の戻入れ」によって増加した、のれん以外の資産の帳簿価額は、過年度において当該資産につい て認識された減損損失がなかったとした場合の(償却又は減価償却控除後の)帳簿価額を超えてはならない。

⑥A reversal of an impairment loss for an asset other than goodwill shall be recognised immediately in profit or loss, unless the asset is carried at revalued amount in accordance with another IFRS (for example, the revaluation model in IAS 16 Property, Plant and Equipment).

訳:のれん以外の資産についての「減損損失の戻入れ」は、他の IFRS(例えば、IAS 第16号における再評価処理)に従 って、当該資産が再評価金額で計上されている場合を除き、直ちに純損益に認識しなければならない

⑦Any reversal of an impairment loss of a revalued asset shall be treated as a revaluation increase in accordance with that other IFRS.

訳:再評価さ れた資産についての「減損損失の戻入れ」は、当該他の IFRS に従って、再評価額の増加として処理しなければならない

⑧An impairment loss recognised for goodwill shall not be reversed in a subsequent period.

訳:のれんについて認識された減損損失は、以後の期間において戻し入れてはならない



 

「減損の戻入れ」には限度額がある

上で述べたとおり、「減損の戻入れ」に関しては、戻入れできない部分があるため、その検討を行うことも必要です。具体的には、⑤で述べられていますね。

特別利益にのっかってくるのではない

IFRSでは、「減損損失戻入益」は「特別利益」にのっかってくると思いきや、本業たる事業での営業損益として認識されるため、営業利益の方にも現れてきます。

のれんの「減損の戻入れ」は無理

上で述べている通り、のれんの「減損の戻入れ」はできません。再三、「のれん以外の」って書かれてますね。あと、当然ながら、日本基準でものれんの「減損の戻入れ」はできません。

仕訳も載せておく

仕訳例も載せておきます。

(借方)固定資産 XXX /(貸方)減損損失戻入益 XXX

貸方では、「減損損失の戻入れ」を計上し、相手勘定では、過去に切り下げられた固定資産の帳簿価額を回復させることになります。

過去事例(三菱商事が保有するローソン株の戻し益)

減損の戻入れが実際に行われた過去の事例について、ひとつ紹介しておきます。三菱商事が保有するローソン株が、IFRS適用で「過年度減損株式の戻り益」が出たよって話です。

三菱商事 平成27年3月期 決算短信[IFRS](連結)

この決算短信、P21を一部抜粋します。

(P21)

持分法で会計処理される投資の減損損失戻入益

当連結会計年度において、連結子会社が32.4%出資するローソン宛投資について、同社株式の市場価格が堅調に推移していること等を背景として、過年度の減損損失累計額84,517百万円を全額戻入れています。

連結会社は、同社宛の投資を独立した資金生成単位として減損戻入れの評価を行っており、市場価格(レベル1)による処分コスト控除後の公正価値が、減損損失累計額を全額戻し入れた帳簿価額を上回ったものです。減損戻入れに伴う利益は、生活産業セグメントの「持分法で会計処理される投資の減損損失戻入益」に含めています。

 P16の連結損益決算書[IFRS]を見れば、「減損損失戻入益」が、営業利益の部分にのっかることも確認できます。「特別利益」の方にのっかるのではありません。



 

最後に

今回は以上になりますが、減損会計には他にも重要な論点がたくさん存在します。たとえば、上で事例として用いた三菱商事の決算短信にも登場してくる「資金生成単位」というコトバも、「減損会計における資産のグルーピング」の関連で非常に重要です。

減損会計を行うにあたって、「資産のグルーピング」をどう行うかで、結構、連結での決算の数字が変わってきたりします。ソフトバンクも以前、スプリント単体では減損したけど、ソフトバンク本体では減損しなかったことがありました。

www.nikkei.com

この記事では、「会計上の違い」って点を強調していますが、米国会計基準とIFRSの違いっていうか、むしろ、スプリント単体とソフトバンク本体で、「資産のグルーピング」のやり方が異なっているところが、一番大事なところです。(※恣意的にイジっているとは思っていません)

また、東芝も、米ウェスティングハウス単体では減損しましたが、親会社である東芝本体では、現状、減損処理を行っていません。(※これも合理性のある理由が認められるからこそ、会計監査人はオッケーにしているのだと思います。一旦は。)

まあ、このへんも、「減損会計における資産のグルーピング」の話と密接に関連した話です。そのへんも、また会を改めて、お話ししていければと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部卒業後、新卒で邦銀に入行。現場では法人営業、本店ではグローバル金融規制対応、各国中央銀行との折衝に従事。外資系コンサルティングファーム勤務を経て、現在は大手監査法人において、ブロックチェーン技術をはじめとするFinTech関連の戦略立案に従事。本ブログ内での発言・コメントは所属する法人・団体とは一切関係ありません。また、特定の金融商品、投資対象、企業、人物に対する特定の意見・判断を述べるものでは一切ありません。寄稿や取材関連のお問い合わせは、Facebook、Twitterもしくはkenta119kenta@yahoo.co.jpまで宜しくお願いします。