日銀のマイナス金利政策が「退職給付債務」に与える影響

f:id:blankfein:20160627220359p:plain
はじめに
オススメ記事についてはこちらから

こんにちは、勝木(@blankfein525)です。



 

先日、大学時代のテニスサークルの同回飲みがありまして、西麻布のriadというバーで飲んでおりました。

www.riad-nishiazabu.com

非常にオシャレな店で、料理もなかなか美味しく、会自体もいい感じで盛り上がったわけですが、経済関連の話でたまに盛り上がる某金融機関勤務の友人と、日銀のマイナス金利政策の話になり、彼から

「マイナス金利からの金利低下からの退職給付債務の膨らみが地味にヤバいかも」

という話がありました。個人的にも、2016年3月度決算を見る上で、退職給付債務はかなり重要なポイントのひとつになると考えてまして、本ブログで共有する価値があると思ったので、ちょっとどういうことか詳しく書いてみます。 

彼の言いたかったことは要するに

 めちゃくちゃ簡単にいうと、彼が主張しているのはこういうことです。

①日銀によるマイナス金利政策発動

②国債の金利低下

③退職給付債務の計算に用いる割引率が低下

④退職給付債務が膨らむ

⑤色々ヤバい

です。

では、順を追って説明していきます。ただし、今回は会計的なところに焦点を当てたく、①日銀によるマイナス金利政策発動→②国債の金利低下は、ちょっと金融論ぽくて、今回の趣旨とは若干ずれるので、入念に割愛します。



 

退職給付債務とは

具体的な説明に向かう前に、退職給付債務とは何かについて軽く触れておきます。退職給付に関する会計基準によれば、退職給付債務は以下のように定義されています。

退職給付債務は、退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものを言います。

また、退職給付債務の具体的な計算方法としては、適用指針14項に以下のような記述があります。

退職給付債務は、予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち、期末までに発生したと認められる額を、退職給付の支払見込日までの期間(支払見込期間)を反映した割引率を用いて割り引き、当該割り引いた金額を合計して計算します。

まあ、「退職一時金と企業年金のことを総称して退職給付債務と言う」っていうイメージでまずはいいと思います。企業にとっては、退職一時金や年金は債務なので。まあ、このあたりは軽く流す程度に読んでください。

割引率は安全性の高い債券の利回りを参考に決定

まず、②→③の説明ですが、これは当たり前といえば当たり前です。当たり前というか、会計基準にそう書いてまして、割引率は安全性の高い債券の利回りを参考に決まります。具体的には、企業会計基準委員会(ASBJ)による「企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準」では、以下のように記載されています。

(割引率)

20.退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する(注6)。

(注6)割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りを言う。 

これは日本基準の話ですね。さらに、日本基準では、適用指針第24項にあるように、国債利回りを使うことが多いようです。優良社債を使おうにも、社債のマーケットがそんなに厚くなく、そもそものデータがないということもあって、国債利回りを使うことが多いようです。

一方で、IFRSでは、IAS第19号第83項を見ればわかるように、原則的には優良社債の利回りを用います。ちょっと引用します。

IAS第19号83項によると、退職後給付債務の割引に使用する率は、報告期間の末日の「優良社債」の市場利回りを参照して決定しなければならないとしている。

ただし、IAS第19号では、どの社債が優良社債に該当するのかは特定しておらず、過去の一般的な実務では、一般に認められた格付機関が付与する最上位2段階の格付(「AAA」とか「AA」)としています。まあ、金融危機以降、こういう優良な格付の社債がかなり減ってしまっていることも問題とされているのですが。

その他、ポイントについていくつか述べます。

何年物の国債や社債を使うのか

一般的には、従業員の退職までの残りの勤務期間の平均に近い年数の国債または社債を用います。具体的には、適用指針第24項にはこのように記述されています。

割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなくてはならない。当該割引率としては、例えば、退職給付の支払見込期間及び支払見込み期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれる。

加重平均割引率あたりは、さらに、イールドカーブ等価アプローチやらデュレーションアプローチやらに分類されるんですが、今回は入念に割愛します。また調べておいてください。あと、実務的な話ですけど、日本企業だったら、だいたい20年物国債を使うところが多いようです。従業員の在籍年数が少ない企業だと10年物国債が多いようです。

いつ時点での利回りを使うのか

期末時点での利回りを使います。



 

割引率の低下で、退職給付債務がでかくなってしまう

次に、③→④の説明ですが、適用指針14項にもあるように

退職給付債務は、予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち、期末までに発生したと認められる額を、退職給付の支払見込日までの期間(支払見込期間)を反映した割引率を用いて割り引き、当該割り引いた金額を合計して計算します。

 なので、割引率が低下すればするほど、退職給付債務が大きくなってしまいます。

自己資本比率はもちろん下がる

退職給付債務が増えると、株主資本が減るので、当然ながら、自己資本比率は下がります。結果、銀行による企業格付が下がったり、スタンダード&プアーズやムーディーズのような格付機関による企業格付も下がる可能性があります。

私は格付機関に勤めたことはないので、格付機関の信用スコアリングシステムのことはあまりわかりませんが、少なくとも、銀行では自己資本比率は企業格付を行う上で、結構重要なファクターのひとつです。

格付が下がると、言うまでもなく、調達金利も上がってしまう可能性も高まるので、わりと重大な問題なのだということを認識しておくと良いと思います。

ただ、一気に債務超過に陥るわけではない

上で述べたように、自己資本比率は確かに下がるんですけど、キャッシュが流出しているわけではないので、いきなり純資産が大幅に毀損して、一気に債務超過へ!みたいな流れにはならないです。

割引率の低下によってもたらされる退職給付債務の増加は、包括利益を経由して、費用化されるため、いきなり純利益に対しての費用とはならず、純資産に急激に減少することはないと思います。たぶん。

企業会計基準委員会は、退職給付会計の割引率の計算にマイナス金利の適用を検討

あと、最近あったニュースなんですけど、日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)によれば、日銀によるマイナス金利の導入を受けて、退職給付会計に割引率の計算にマイナス金利の適用を容認することが決まったようです。以下にリンクを載せます。

www.nikkei.com

まあ、とはいえ、2016年3月期末で、退職給付債務の計算に用いる割引率として、マイナスを用いるところなんて、実際ほとんどないと思っています。

10年物国債は確かにマイナス金利になっている可能性もありますが、10年物国債を割引率に使っているような従業員の在籍期間が短い企業は非常に数が限られるからです。

なので、割引率の計算にマイナス金利を適用するなんていうのは、現時点ではちょっと現実的ではないかなあと個人的には考えています。

キャッシュバランスプランに移行している企業も

退職給付債務のリスクを低減するために、キャッシュバランスプランと呼ばれる退職一時金の半分を確定拠出年金に切り替える企業も出てきています。

トヨタとか東芝ですね。

参考:トヨタ自動車75年史 福利厚生 病院・健康保険組合・企業年金基金

参考:TOSHIBA 有価証券報告書

東芝の有価証券報告書から一部引用します。

当社及び一部の日本の子会社は年金制度について、2011年1月に従来の確定給付企業年金制度を労使の合意を得た後に改定し、2011年4月よりキャッシュ・バランス・プランを導入しました。これは対象者の年金について、給与水準及び毎年の市場金利等を考慮して計算した金額を、対象者ごとに積立を行う制度です。

この場合、今回のようなマイナス金利の場合でも、金利低下に伴って、給付見込み額も低下するため、企業側からすれば、金利リスクを負わなくてすむようになります。

企業側からすれば、金利リスクを負わなくても済むのですが、従業員側からすれば、将来の給付見込み額が減る可能性があるわけですから、結構大問題でもあります。

金融政策が企業財務に影響して、さらに、個人の家計レベルにまで大きく影響を与える可能性は、シッカリと胸に刻んでおく必要がありそうです。(※もちろん、マイナス金利政策は、それ自体、個人の家計レベルにモロに直接的に影響を与えるのですが)

最後に

退職給付債務は地味に重要

普段、金融やら財務やら会計やらに馴染みがない人にとってみれば、かなり難しい話だったかもしれませんが、企業を分析する上で、バランスシートの分析は避けて通れないものですし、その中でも、退職給付債務は地味に結構重要です。

公認会計士試験でも結構出題される分野だし。概念としても難しいし、用語も「過去勤務差異」やら「利息費用」やら「数理計算上の差異」やら「未認識数理計算上の差異」やら「会計基準変更時差異の費用処理額」やらワケがわからないものも多いですが、勉強してみる価値はあります。

PL(損益計算書)を読むのはそこまで難しくないと思っているんですが、BS(貸借対照表)をちゃんと理解できている人は、金融パーソンやコンサルタントでも多くないと思いますので。

2016年3月決算のポイントになるのかも

マイナス金利というと、株式市場や債券市場にもたらされる影響がクローズアップされがちですが、企業財務にもかなり直接的に影響を与える点についても理解しておくべきで、冗談抜きで、2016年3月決算を見る上で結構重要なポイントになるかも、と感じています。

特に、従業員数が多く、年功序列で終身雇用の伝統的な日本企業ほど、割引率低下の影響を受けやすく、退職給付債務が膨らんでしまう可能性が高い。

今後は、そのあたりも注意しながら、有価証券報告書を見てみると新たな発見があるかなと思います。リアルに、多くの企業で割引率を大幅に変えてくる気もしています。

さらに、最近では、監査法人への視線も厳しさを増していることもあって、過年度にわたって、適正な割引率を用いて退職給付債務を算出しているかのチェックも行われる可能性があります。

個別の企業の名前を出すことは控えますが、ある企業では、明らかにある年度だけ割引率を異常な水準で設定しているケースもあったりで、そのあたりを監査法人がどう見るかもポイントのひとつかもしれません。

割引率は大変便利な概念だが、万能ではない

今回ぐだぐだ述べてきたこの「割引率」という概念ですが、将来のキャッシュフローを現在価値に割引く手法はなかなか優れた部分も多い一方で、将来にわたって影響を及ぼしてくる様々な要因を、割引率ひとつにまとめるのはなかなか無理があり、数字としての正確性にはちょっと疑問も感じます。

客観的な算出手法のように言えて、実はかなり恣意性の高い方法であることも頭に留めた上で、企業分析に取り組むのが良いでしょう。実際、M&Aアドバイザーをやっている友人の話でも、「将来キャッシュフローの合計を割引率で割り引くDCF法(Discounted Cash Flow法)は、客観的な算出法のように見えて、実はけっこうテキトーな方法」との話を以前にしていました。

また、彼によれば、実務的に企業価値を算出する場合、DCF法で計算する場合とマルチプル法で算出する場合を併用するのが一般的とのこと。で、基本的にDCF法で算出した場合の方が、より企業価値が高く見積もられるため、フィーを稼ぎたい投資銀行はDCF法を押したがる傾向があるといえばあるみたいな話も少ししていました。このあたりもまた機会を改めて書いてみたいと思います。

公認会計士試験でも、退職給付会計は頻出分野

上にも述べましたが、退職給付会計がらみの話題は、最近の公認会計士試験(短答式試験)でも結構出題されています。以下に記載します。

  • 平成28年第Ⅰ回(問題16)
  • 平成27年第Ⅱ回(問題15、問題16)
  • 平成27年第Ⅰ回(問題15、問題16)

という感じで、なかなか重要な分野のようです。

次回予告

今回はここまでですが、ちょっとゴリゴリのカタい内容になってしまったので、次回はもうすこし柔らかめでいきます。たぶん、「将来やりたいことを無理やり決める必要はない」みたいなキャリア系の記事を書くと思います。

【7/28 追記】 マイナス金利時代を生き抜く新しい資産運用法|今登録すべき「ソーシャルレンディング」サービス5選

本記事では、マイナス金利が企業財務に与える影響について考えてきましたが、当然ながら、家計に与えるダメージも少なくありません。以下のソーシャルレンディングサービスは、利回りも10%近いものもあり、このタイミングで登録してみるのも良いかもしれません。

クラウドクレジット

海外投資型クラウドファンディングならクラウドクレジット

ラッキーバンク

⇒ラッキーバンク

ラッキーバンク
みんなのクレジット

⇒みんなのクレジット

みんなのクレジット
クラウドバンク

⇒クラウドバンクで資産運用

ビットフライヤー

また、ソーシャルレンディングではありませんが、新しい時代の資産運用として、bitFlyerでビットコインで運用を行うのも、分散投資の一環としては、オススメです。

⇒ビットフライヤーで仮想通貨ビットコイン取引デビュー!

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

 COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

NO IMAGE

IFRSで認められている「減損の戻入れ」について、三菱商事の事例を用いながら解説...